ロッキン2013、人生を変えてくれたクリープハイプのステージ

 知らなかった世界に興味を持ったり、新しく何かを好きになったり。生きていけばそういうチャンスはたくさんある。でもその特別な瞬間を、人はいちいち覚えていない。僕はこうして文章を書きたくなるほどに音楽にのめり込んだ時のことを、幸運にも覚えている。

きっかけはクリープハイプ

 音楽を聴くようになったのは中学生の時、同じ部活の同級生が貸してくれたCDがきっかけだった。中身は見知らぬBUMP OF CHICKENというバンド。時期的には「jupiter」が出た頃だったけど、このCDはそいつの好きな曲を集めたオリジナルのベストアルバム。一曲目はStage of the groundだった。

 そこから僕の中学生活はバンプに染められた。今でも当時の楽曲は全部歌えるくらいには聞いたし、この世でかっこいい音楽はバンプしか鳴らしていないんだと思っていた。

 高校の頃には「バンプに似たバンドがいる!」という今思えば最低な出会いから、RADWIMPSあたりは聞いていたけど、まだ当時はJPOPだロックバンドだという概念は知らずにいた。何聞いているのと聞かれれば、あとはミスチルとかあの頃はやっていたYUIとかだった。たぶん

 2013年は大学生活の折り返し頃。カラオケに行ったりするのは好きで自分でも音楽好きな人間であるという気持ちでいた。そんな中、友達に誘われて初めてフェスというものに行くことになる。それが2013年、ロッキンの2日目だった。

 参加を決めた時点で知っていたアーティストといえば、バンプ、アジカン、平井堅、山崎まさよし、加藤ミリヤくらいだったんじゃないだろうか。よく行ったな今思えば。後半の3組は「知っている」ってだけだし

 なのであの時のタイムテーブルを見ても、会場に着いてから何をしていたのかさっぱり思い出せない。誰かに連れられて適当にうろついていたのか、ライブを見た記憶すらない。ただ会場に入った瞬間に広がる光景に興奮したのは覚えているし、そこで家入レオが歌っていたのを横目に見ていたのはなんとなく覚えてる。

 アジカン、バンブの終盤まで、特にお目当のいなかった僕は友人グループの誰かと行動を共にしていたはずだ。そして転機がやってきた。

「見たいのないならクリープハイプ行ってみようよ。きっとかっこいいから」

 "クリープハイプ"なんて名前も聞いた事なかったけれど、なんとなくついて行ってレイクステージに入った。友達二人と一緒に、割と前方中央にいた。

 当時、クリープハイプは長い下積みを経て、ついに人気に火がついた時だった。1年前のロッキンではWING TENTでの出演、一気に二段階のステップアップだ。

 そういう時期のライブは見にくるお客さんも熱量があり、良いライブになることが多い。尾崎世界観もギラついていたし、今はもう見られない貴重なタイミングだった。

 棘のあるサウンドに突き抜けるハイトーンボイス。全くの初対面には刺激が強かった。なんだこれは、俺が今まで知っていたロックなんてロックじゃなかったんだ・・・『憂、燦々』が終わってからステージの入り口を見て「あ!CMの曲が終わったら出て行く人がいる!」と皮肉を言うほどに世界観も尖っていた。僕はCMソングさえ知らなかったのだけど。

 ちなみに最近の尾崎さんに比べるとあの時は圧倒的に高音も出ていて、音程もしっかり取れてた。音源そのままと思ってもらって差し支えない。それから数年はどんどん下手になって行く(声が出なくなって行く)世界観を見にライブに行っていたもんだ。

 そんなんだから、ライブはすごくカッコよかった。曲は知らなかったけどそれなりに歌詞も聞き取れたし、何よりお客さんの盛り上がりが最高だった。気がつけば何もわからずに一緒に縦に飛んでいた。

 あれから数えきれないくらいに色々なバンドのライブを見てきたけど、何も知らずにふらっと来た人間を、感動させてしまえるのが本当にいいライブだと思う。知ってる曲が聴けて楽しいのはもちろんだが、本物のライブは心に刺さってくるものだ。

 あの年のクリープハイプのステージはまさにそれだった。一番印象に残っているのは最後に歌われた『社会の窓』早口だけどちゃんと聞き取れて意味がわかった上に2番サビ前の「余計なお世話だよばーか」と言う定番のアレが僕にとっては会心の一撃だった。

 目当てにしていたアジカンとバンプを差し置いて、ベストアクトはクリープハイプに決まった。帰ってTSUTAYAに飛んで行ってアルバムを借りたところから、一気に世界が広がって行く。他にも人が勧めてくれるバンドはどんどん聞いて、それからはもう当然のように毎年フェスに行くようになる。あの時のクリープハイプとの出会いは本当に大きいものになった。

 本当なら今頃は灼熱のひたちなかで叫んで飛んで笑ってたんだろうなと思うと、やるせない気持ちになる。あの時間のために毎日を過ごしているのにな、って。

 誰も悪い訳でもないから、気持ちをぶつけるところがない。だからここに書いてしまった。きっと同じようにモヤモヤしている仲間はたくさんいるんだろうね。来年こそは開催できるように願って、頑張って今を乗り越えていこうね。

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